「よく噛んで食べなさい」と、昔からよく言われています。何となく知っているけど、あまり熱心に噛んで食べるということを実践している方は少ないのではないでしょうか。
食生活の変化、嗜好の変化などにより、それほど噛まなくてもおいしく食べられるモノが増えています。食レポなどでも「柔らかい!」=おいしいという風潮であり、噛む嗜好品ともいえるガムでさえ、柔らかいモノが好まれ販売数を伸ばしているという潮流にあります。
しかし今、よく噛んで食べることが、健康にとって様々なメリットを与えることが、どんどんと明らかになってきています。しっかり噛んで食べる事は私たちがイメージする以上に、健康なカラダを手に入れるために大切な役割を担っているのです。

「よく噛む」ことの役割と健康効果

では、「よく噛む」ことで、どんな効果が得られるのでしょうか。
様々な役割の中でも、健康と密接と言えるのは「消化」に関わる部分です。人は食べ物を食べることで、栄養素を吸収して生きています。栄養素を効率的に吸収するためには、確実な『消化』が必要になるからです。

1.消化のスタート1 物理的な消化

まず思いつく「よく噛む」ことの役割は、食べ物をかみ砕いて、小さくすることです。
固形物である食べ物を、歯を使って小さく砕いていくことで飲み込みやすくなり、食道を通じて胃へと運んでいくことができます。
この咀嚼によって食べ物をかみ砕いていく行為を「物理的な消化」といい、この物理的な消化は、消化の中でも唯一自分の意志で行える消化であり、重要な役割なのです。

2.消化のスタート2 化学的な消化

口の中にいつもある「唾液」ですが、実は様々な機能を持っています。その一つが、消化機能です。唾液の中に含まれる「アミラーゼ」という酵素を、咀嚼によって食べ物と混ぜ合わせることによって、炭水化物の分解が行われます。これを「化学的な消化」といいます。胃での消化はタンパク質がメインですので、この口での炭水化物の消化は、消化全体にとってとても大切になるのです。

3.消化のスイッチを入れる

「噛む」ことで、消化に欠かせない2つのスイッチが入ります。
ひとつは、唾液の分泌が促されます。よく噛むことによって、口の中が唾液でいっぱいになってきます。
それからもう一つは、胃での消化に備えて、胃の中の消化液の分泌も促されます。しっかりと咀嚼をすることで、胃の中に十分な消化液が分泌され、胃での消化がスムーズに行われます。もしこのタイミングで胃の中の酸度が適切にならないと、その後の腸での消化・吸収に大きな悪影響が出てきます。

4.胃や腸の負担を軽減する

胃や腸では、物理的な消化はできません。あくまでも、消化液による化学的な消化のみでしか消化を行うことができません。ですから、大きな固形物を送り込んでしまうと、それを消化するために、胃や腸といった消化器官に大きな負担をかけることになります。
それにより、消化のために多くのエネルギーを使うことになり、あなた本来のパフォーマンスが発揮できなくなります。
本来、口の中で行うべき物理的な消化によって、食べた固形物が小さくなっていること。合わせて化学的な消化によって、食べ物と唾液がしっかりと混ぜ合わさっていること。
この二つの消化を口の中での「咀嚼」によって、確実に行っておくことで、胃や腸といった消化器官の負担の軽減につながります。

5.口の中を守る

「よく噛む」ことで、たくさんの唾液が分泌され、口の中にいきわたることで、口の中の健康が保たれます。唾液には殺菌効果もあり、虫歯菌を抑えたり、口臭の原因菌を抑えたりにも活躍します。また、粘膜を守り、菌やウイルスのカラダの中への侵入を防いでくれています。

6.脳の機能を活性化する

噛むと脳への血流が増えます。噛むたびに歯の付け根部分が押されポンプの効果のように、血液がどんどん脳へと送りこまれていきます。その結果、反射神経、記憶力、判断力、集中力などが高まる効果があると言われます。ガムを噛んだ後の方が、記憶力がよくなるという研究結果など、よく噛むことによる脳への効果の研究は、様々すすめられています。

7.免疫力のアップ

噛むことで分泌される唾液には、免疫力を高める働きをする物質も含まれています。
また、噛むことで副交感神経が刺激されます。白血球中のリンパ球をコントロールする役目のある副交感神経を優位になり、リンパ球が増え免疫力が高まります。

8.ストレスの軽減

咀嚼することで、幸せホルモンといわれる「セロトニン」も分泌されます。
ストレスの軽減効果、リラックス効果などがあるセロトニンが十分に分泌されることによって、心を穏やかで落ち着いた状態に保つことができます。

9.ガンや生活習慣病の予防効果がある

噛むことによって、分泌が促進される私たちの唾液には、「ペルオキシダーゼ」という発がん性物質が作り出す活性酸素を消す働きがあるが酵素が含まれています。咀嚼回数を増やし、唾液をたくさん分泌させて食べることで、ガン予防効果が得られます。また他にも、心筋梗塞や脳卒中、動脈硬化、糖尿病、骨粗しょう症予防にも有効だと言われています。

10.肥満予防の効果

よく噛んで食べていると、肥満を予防の効果を得られます。
たくさん噛んで食べると満腹感を感じやすくなり、食べる量を抑えることができます。
また、腸での未消化物の量が減ることで、腸内環境の悪化による太るリスクからも解放されます。

咀嚼回数は減少しているの?

現代に生きる私たちは、人類史上過去に例がないといってよいくらい、噛む回数が少なくなっています。

咀嚼回数は激減している

現在の日本人の平均咀嚼回数は、一食あたり約600回と言われます。
しかし、時代をさかのぼってみると、江戸時代は約1000回、鎌倉時代は3000回、弥生時代は4000回も咀嚼していたとされます。

咀嚼回数が減っている背景

昔と今を比べてみると、明らかに食べるモノ自体も、調理の方法や技術も違っています。
例えば食べるモノでは、昔は雑穀や玄米を食べていたましたが、今は柔らかくて食べやすい白米を主に食べるよう変化しています。その食べ方も、昔は煮るとか茹でるとか、簡素な調理法でしたが、今ではふっくら柔らかに誰でも炊ける炊飯器で炊いて食べます。
また、貴重な食べ物をしっかりと味わって食べていた昔に比べて、飽食の時代に生きる私たちはお腹を満たすために何気なく食べることや、ながら食べも多くなっています。
そう言った様々な食・生活の変化が、現代人の噛む回数を大幅に減らす原因になっているのです。

理想の咀嚼回数や噛み方のポイントとは

「よく噛む」とは、どのくらい噛むことなのでしょうか。
咀嚼が健康にとって重要なことは分かりましたが、では、どのくらい噛むことで健康効果を得ることができるのか。また、どんな風に噛んだらよいのかについて、ここからお伝えしていきます。

消化しやすくなるまで噛む

一般的によく噛むというと、「一口につきおおよそ30回」といわれますが、何でもかんでも30回噛めば良いとはいえません。
咀嚼の大きな役割は、消化を助けることです! ですから、自分が今食べている食べ物が、「消化をしやすくなる」まで噛むことが、適切な咀嚼回数なのです。
口と違って、胃や腸は咀嚼することができません。だから食べる私たちが、どんな状態だったら消化できるのか? 負担が少ないのか? そんな想像をして、咀嚼の回数を決めましょう。できるだけ、小さく柔らかく粥状になったものがよいと思いませんか!?

噛む方法も胃や腸の気持ちになって工夫を

繰り返しになりますが、咀嚼の大きな役割は、消化を助けることです。
どのような咀嚼の方法が良いのか! それは消化の助けにつながる噛み方が基本です。
物理的な消化と、化学的消化を、効率的に行える噛み方をイメージしましょう。
食べ物を、口の中全体で回しながら、全ての歯を使って様々な角度からの咀嚼を行います。そして、固形物を小さくしながら、しっかりと唾液と混ぜ合わせいきます。
噛みやすい一か所だけで噛み続けるのでは、決して質の高い咀嚼にはなりません。
また、大切な唾液を、口中に全体に広げてあげるイメージも忘れずに。

まとめ

今回は、「よく噛む」ということについて、改めてみてきました。
噛むことが、様々な形で健康と繋がっていること、しかし噛む機会が減少していること、そして、理想的な咀嚼回数や仕方など、ご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
噛むという行為は、何となく無意識に行っている行為でしたが、これからは“意識をして積極的に行う行為”に変えていく時代になってきました。
人生100年時代を迎えた今、「よく噛む」ということは、健康のためにすぐにできるアクション第一位といっても過言ではありません。お口の健康だけでなく、消化・吸収を高め、全身を健康に寄与します。
是非、日ごろから「ここまで噛めばしっかり消化できるかな!?」と、胃や腸のこと想いながら咀嚼を意識してくださいね。