『世の中、貧血に困っている方が本当に多いですよ。貧血ブームか? というくらい。だけど、貧血を治すにはサプリを飲めばよい、肉を食べればよい、そんな風に思っている人が多いんですよね……』

先日、Health Support Labo予防医療クリニックの梶山智子医師との会話の中でこんな話題になりました。

だるい、疲れやすい、立ちくらみ、肌が乾燥する、髪が抜ける……。こうした現代人の不調の背景には「貧血」が関わっていることが多く、その3分の2は「鉄分不足」が原因と言われています。血液の中のヘモグロビンは人間のカラダを作る60兆個の細胞に酸素を運ぶ役割をしますが、このヘモグロビンの材料となるのが「鉄分」です。つまり鉄分が不足すると、全身の細胞がいわば「酸欠状態」になることで様々な不調を引き起こす、という訳です。

この貧血モンダイ。実は、消化力低下がもたらす現代版栄養失調の主たる症状の一つです。
確かに、鉄分が豊富な食材を日常的に取り入れるのは大切。しかし、セルフケアを行う上でさらに重要なのは消化力を高めること。「何を食べるかの前に、どう食べるか」を意識して実践することです。

貧血は鉄のサプリメントを摂ればよい?
貧血を治すには肉をたくさん食べればよい?

そう考える前に、まずは皆さんに知ってほしいこと。
今回は消化力と貧血の関係について、です。

何故、三食べているのに鉄が不足する?

産婦人科医の先生に聞いたところによると、女性の貧血の原因が子宮筋腫などで過多月経である場合は、その原因を治療することを考えるが、原因がはっきりせずに貧血を繰り返す方がいるそうです。通常、病院に行けば鉄剤が処方されます。最近だと栄養療法をやっている自由診療のクリニックもあり、高額なヘム鉄のサプリが出たりもします。しかし、鉄剤やサプリを飲んでも貧血が改善していないことが多いというのです。
毎日三食きちんと食べていれば、食事に鉄分が含まれていないとは考えにくい。ましてや鉄材を飲んでいるのも関わらず改善しないことがある???
何故でしょうか。

鉄の消化吸収プロセスを知る

これは、明らかに消化吸収のプロセスがうまく行われていない、栄養素をしっかり細胞に届かせる体内環境になっていない、と疑ってみる必要があります。
私達は食べ物から栄養素を受けとり、生命活動を維持しています。この栄養素を受け取る仕組みが消化器官による、消化~分解~吸収のプロセスです。「鉄」に限った話ではないですが、そもそもこのプロセスがきちんと働いていないと、いくら鉄分豊富な食材を食べてもあまり意味がない、とさえ言えるのです。

鉄の種類と吸収率

食材から摂取できる鉄分は、肉類に含まれる動物性の「ヘム鉄」と、穀類、豆類、野菜に含まれる植物性の「非ヘム鉄」に分けられます。
ヘム鉄は比較的吸収のよい鉄ですが、それでも食品から吸収できるのは20%ほど。植物性の非ヘム鉄は、そもそも繊維質とガッツリ結合しているために、さらに吸収率が悪く、食品から吸収できるのは5~10%ほどといわれています。ただ、前提として、これらの食品がしっかり「消化」されていればの話。「消化」が不十分であれば、さらに吸収率が下がるのは言うまでもありません。

消化と吸収には「胃酸」がカギ

口から食べたものはまず「咀嚼」によって細かくされ、続く胃の中の「胃酸」によって、消化分解が進みます。タンパク質や繊維質と結びついた鉄は強烈な酸によって切り離され、初めて吸収される状態になります。アメリカの研究者の報告によると、44人の慢性貧血の成人男女の胃酸分泌能力を調査したところ、そのうち80%で胃酸がほとんど分泌されていないか、分泌量が非常に少ないことが分かったといいます。

胃酸の大きな役割が食物の消化である以上、そんなの当たり前だよと思われるかもしれません。しかし、貧血の根本的な原因の一つが「胃酸」にあることを理解し、体内環境に気を付けているという人がどの位いるでしょうか。また、鉄の吸収は胃酸の分泌能力だけでなく、胃の中のPH(ピーエッチ)の状態にも影響されるといいます。以下、私の師匠のブログより引用です。

1990年のイギリスの研究チームの報告では、非ヘム鉄から鉄を分離するためには、少なくとも胃酸のpHは4.0以下であることが条件と報告しています。慢性的な貧血で、鉄の吸収が不良なクライアントの胃酸の分泌能力と、pHを調べてみると、60%くらいの人に胃酸分泌の低下またはpHが十分に酸性にならない人がいるため、栄養療法ではこのような人に、胃酸を補うための塩酸(塩酸ベタイン+ペプシン)のサプリメントを使ってもらうことが少なくありません。
「臨床栄養士のひとりごと」https://nutmed.exblog.jp/ 

従って、胃の中がアルカリに傾くような行為、例えば、食事中のがぶ飲み、胃薬の常用、カルシウムやマグネシウムのサプリの食後すぐの服用など、は鉄分の吸収率を下げてしまうという訳です。

胃酸の役割や胃酸不足によるリスク、セルフチェックについて詳しくはこちらの記事にまとめています。併せてご覧ください。

セルフケアで消化力を高める

もし重い貧血がある場合は、病院で「鉄剤」をもらったり、サプリメメントを活用することも必要になるでしょう。しかし一方で、鉄を食事以外から多量に摂ると、便秘、下痢や吐き気といった症状から、鉄が体内に過剰に蓄積して肝硬変や心不全などの臓器障害などの副作用のリスクが伴います。

冒頭の梶山先生との話の続きですが、
『妊婦さんは貧血にならないようにと鉄を摂るように勧められる。でも、鉄剤の過剰による胎児へのリスクもある。先生どうしたらいいの? と普段、助産院で話しているとママさんから相談されるケースも多いんです』
とのこと。

当たり前ですが、貧血にならないに越したことはありません。むしろ、酸素や栄養素の運び屋である「鉄」は、妊婦さんはもちろん、老若男女問わず、積極健康を営む上で最も重要な栄養素の一つです。

鉄分不足にならないようにセルフケアできること。そのためには、何を食べるかも大事。そしてそれ以上にどう食べるか。胃酸を中心として消化吸収のプロセスが健全に働いているかどうか、カラダの声を聞き、ぜひ消化力を低下させない食習慣を実践して頂きたいと思います。

※鉄材豊富な食材の参考サイトも下記に挙げておきます。

●貧血予防に効く栄養素と食材(女子栄養大学)
http://www.eiyo.ac.jp/recipe/sp/feature/view/vol:1/lesson:3/
●鉄分の多い食品と鉄分の含有量一覧表 (簡単!栄養andカロリー計算)
www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/iron.html