オリーブオイル、えごま油、亜麻仁油、ココナッツオイルなどに代表される植物油は、いわゆる「ヘルシーオイル」とよばれ、ダイエットから高血圧、認知症予防までその健康作用が着目され、近年ブームとなっています。みなさんもテレビや雑誌やSNSで目にする機会も多いのではないでしょうか。でも、油の話は、飽和、不飽和から始まって、中鎖脂肪酸、一価、多価、オメガ3、オメガ6、など、●●脂肪酸とつく呼び名がたくさんあって混乱したことはないでしょうか? そこで、おもな脂肪酸の種類や代表的なオイルについて整理してみました。

脂質について

脂質はどのような「脂肪酸」で構成されているかによってその性質がまったく異なります。脂肪酸の構造は、炭素と水素が手を組んで1本の鎖のように連なっていて、その片端にカルボキシル基が結合した形をしています。この構造を基本として脂肪酸を形作るパターンの違いでいくつかの種類に分類されます。

分類 主な脂肪酸 多く含むオイル 働き
飽和脂肪酸 パルミチン酸
ステアリン酸
ミリスチン酸
ラウリン酸
ココナッツ油、パーム油、豚脂、牛脂、バターなど ・血液中の中性脂肪やコレステロールを増やす
不飽和脂肪酸 一価不飽和脂肪酸 オレイン酸 オリーブ油、菜種油、アボガド油 ・血液中のコレステロールを低下させる
・胃酸の分泌を調整する
・腸の蠕動運動を促す
多価不飽和脂肪酸 オメガ6脂肪酸 リノール酸 紅花油、ひまわり油、大豆油、コーン油、ごま油 ・血液中のコレステロール低下させる
・摂りすぎると動脈硬化、アレルギー、高血圧などを招く
γリノレン酸 月見草油 ・血糖値、血液中のコレステロールを低下
・血圧を調整
・抗炎症作用
オメガ3脂肪酸 αリノレン酸 亜麻仁油、えごま油、紫蘇油 ・アレルギーを予防
・高血圧、心疾患、がんを予防
DHA(ドコサヘキサエン酸) 魚油、肝油 ・中性脂肪を低下させる
・脂質異常症、高血圧、脳卒中、虚血性心疾患、認知症を予防
EPA(エイコサペンタエン酸 魚油、肝油 ・抗血栓作用
・中性脂肪を低下させる
・脳血管障害、虚血性心疾患、高血圧、動脈硬化、脂質異常症、皮膚炎、アレルギーを予防

【脂肪酸組成図】(図1)

脂肪酸の分類について

それでは、順番にみていきましょう。

「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」

出典:栄養の基本がわかる図鑑事典(成美堂出版)

脂肪酸は、まず「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。鎖状につながった炭素にすべて水素が結合しているのが飽和脂肪酸で、この炭素と水素の結びつきがどこかで外れ、炭素どうしが二重に結合している部分をもっているのが不飽和脂肪酸です。飽和、とは「水素」で飽和されているという意味で、すき間のない完全な形をイメージすると分かりやすいでしょう。飽和脂肪酸は主に肉類や乳製品に多く含まれ、融点が高く、常温で固まる性質をもっています。植物油の中でもココナッツオイルは飽和脂肪酸の含有量が多く、そのため26度以上で固まります。

・飽和脂肪酸

代表的な油)バター、ラード、牛や豚の脂身、ココナッツ油など
常温で個体になる性質をもつ。重要なエネルギー源。人間の体内でつくることが出来る。加熱調理に向いている。

「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」

不飽和脂肪酸はさらに、炭素の二重結合が1個だけのものを一価不飽和脂肪酸、2個以上あるものを多価不飽和脂肪酸と呼びます。この多価不飽和脂肪酸のうち、炭素の鎖のつながりが終りから数えて何番目に二重結合しているかどうかによって、オメガ3系(n-3)、オメガ6系(n-6)などに分類されます。

・一価不飽和脂肪酸

代表的な油)オリーブオイル、キャノーラ油(菜種油)、パーム油など
コレステロールのバランスに有用。人間の体内でつくることが出来る。比較的加熱調理に向いている。

・多価不飽和脂肪酸

代表的な油)亜麻仁油、えごま油、魚油、コーン油、紅花油、ゴマ油など
細胞膜の材料や生体機能の調節に関わる。人間の体内でつくることが出来きず食事から補う必要がある。加熱には向いていない。

必須脂肪酸について

多価不飽和脂肪酸に分類される「オメガ3脂肪酸」と「オメガ6脂肪酸」は共に【必須脂肪酸】とよばれ、体内で合成することが出来ないため食事から補わなければなりません。必須脂肪酸は、細胞膜を構成するリン脂質の成分として、細胞への栄養吸収などの機能に関わっていますので、不足すると健康上に様々な弊害をもたらすことが分かっています。

理想的な摂り方

オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸はそれぞれ逆の作用(拮抗作用)を起こすため、摂取バランスが重要です。このバランスは「オメガ3脂肪酸:オメガ6脂肪」を「1:4」の比率で摂ることが理想とされ、近年、オメガ6脂肪酸の摂取比率が上がりこのバランスが崩れることで、様々な健康上の問題が出てきていると指摘されています。残念なことに、近年の日本人の欧米型の食事ではオメガ6の摂取がダントツで多くなり、1:10~40に及ぶ場合もあります。
私たち、現代人は数十年で急速に食環境が欧米化してしまいました。そのため厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準」でも、サラダ油やコーン油、マヨネーズ、べにばな油に代表されるオメガ6必須脂肪酸の過剰摂取が指摘されています。オメガ6にはアレルギー促進や炎症促進、血栓促進作用がありますので、オメガ6過多の食生活がアトピーや花粉症などのアレルギー症状の悪化や不調の原因のひとつになっていることは間違いありません。理想的なバランスに近づけるためには、まずは意識してオメガ6系の油をとらないようにする位で丁度良いでしょう。
反対にオメガ3は、アレルギー抑制、炎症抑制、血栓抑制とまったくその逆の働きをしますので、意識的に良質なオメガ3の油を摂ることが大切なのです。但し、オメガ3は熱に弱いため、加熱調理用には向きません(油は元来熱に弱く、加熱すると酸化してしまいます)。炒め物などの加熱調理には融点が高く、酸化しにくいオメガ9系のオイル(オリーブオイル等)を使用するのがおすすめです。

オメガ3に期待できる働き
・脳の健康維持(うつ、認知症予防)
・炎症を抑える
・心血管疾患の予防(動脈硬化、心臓病予防)
・がん予防
・悪玉コレステロール低下
代表的な油
亜麻仁油、えごま油、チアシードオイル、青背の魚の油、etc

まとめ

脂肪酸の種類はたくさんありますが、その構造に炭素どうしの二重結合が有るかないかで「飽和脂肪酸」「一価不飽和脂肪酸」「多価不飽和脂肪酸」と3つのカテゴリに分類されます。
例えばオリーブオイルは一価不飽和脂肪酸だけでできている、とよく誤解をされがちですが、食用油はこれらのどれか一つのみでできているものではく、図1のように、天然の脂肪や油はすべてこの3つのカテゴリの脂肪酸が混ざっており、これを「脂肪酸の組成」と言います。亜麻仁油やエゴマ油などのように、オメガ3脂肪酸であるαリノレン酸の含有比率が高いと、「オメガ3系の植物油」などと呼ばれます。また、一般に動物性脂肪は飽和脂肪酸の含有率が高く、植物油のほとんどは多価不飽和脂肪酸を多く含んでいると言えます。

以上、なにかと混乱しがちな脂肪酸の種類についてまとめました。ヘルシーオイルブームの昨今、油の話は至る所で目にしたり耳にしたりすると思います。どういう意味だっけ? どんな働きがあるの? と迷った時には本記事を活用してください。